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日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

日本語教師プロファイル小島若葉さん―教師にもメンタルヘルスケアが必要です!

今回「日本語教師プロファイル」でご紹介するのは、オンライン日本語プライベートレッスン事業Waka Language Laboratory代表の日本語教師であり、産業カウンセラーの資格もお持ちの小島若葉さんです。外国ルーツの高校生への日本語支援やポッドキャスト、noteでの発信など多方面で活動をされています。また小島さんは2023年10月に「日本語教師のためのメンタルヘルスケア」講座を開催されました。これまでの経歴とともにメンタルヘルスケアについてもお話を伺いました。

国語か日本語かで、日本語を選び

――大学卒業後、高校で教えていらっしゃったと伺いましたが。

はい、私立高校で教科の国語と留学生に対する日本語授業の両方をやっていました。

子どもの頃から言葉が好きで、国語の教師になりたかったのですが、途中から日本語教師もいいなと思い、大学生の時にはアルバイトで非常勤講師として日本語を教えていました。

卒業後に国語教師として勤めた高校には台湾とオーストラリアに姉妹校があり、短期や1年間の留学生がきていたので、その生徒たちに日本語も教えたんです。『みんなの日本語』(スリーエーネットワーク)を使った文型積み上げ式でしたね。25年ほど前のことです。

――その後、高校の国語教師を辞めて日本語学校に勤務されたということで、「日本語一本」に絞ったのは何か理由があるんですか。

実は、実際に国語を教えてみると、私、古典が苦手だったんです。古典の文法を教えるのが嫌でしょうがなくて。それに生徒指導も苦手でした。やっていくうちに日本語を教える方が楽しくて、私には合っていると思いました。ただ、日本語授業だけだと、高校の常勤はできなかったので、退職して日本語学校の専任になりました。

その日本語学校はちょっとやんちゃな学生もいるところで、授業以外のことにも振り回されて、こんなはずじゃなかった…...って思いましたが、それでも5,6年いました。週に20コマほど初級ばかりガッツリやっていました。2,3年目には中上級も任されるようにはなりましたが、メインは初級のクラスでした。専門学校に進学する学生の多い学校でした。

面接や模擬授業を多数経験して分かったことは

――その後、結婚されたのですね。

ええ、夫が転勤族だったので、名古屋、大阪、東京と引越し、行った先々で非常勤講師として教えました。なので、私、日本語学校の面接をすごく受けているんです。模擬授業も何度もやりました。

――そうですか! 何か面接や模擬授業のコツがあれば教えてください。

模擬授業は、課題を指定される場合もありますが、指定が無い場合もあります。そんな時は、あまり易しすぎる項目ではなく、例えば「と・たら・ば」をやりました。「と・たら・ば」は初級文法の肝なので、それをやれば自信がある人なんだなと思われるんじゃないか、と。実際に「と・たら・ば」を指定する学校も多かったので、私は模擬授業セットを用意していました。何回もやっていると、誤文とか意味の違いとかどんな質問が来るかわかってきて、質疑応答を事前にシミュレーションできるようになりました。

――面接で落ちることもありましたか。

あります、あります。落ちるパターンもなんとなく分かってきて、面接官が一生懸命仕事の説明をしだすと、「あなたはこちらが期待している経験や技術のレベルではない」と説得しているんだと分かりました。「決まったテキストがない授業や個別の学生対応等の仕事がありますけど大丈夫ですか」と聞かれた時、もし自分が行きたい学校だったら「はい、経験あります! できます!」ってアピールしていました。

――それだけたくさん受けると、学校の良し悪しも分かるようになりませんか。

そうですね。教務室にいる先生たちの雰囲気でも分かりますね。面接に行って、挨拶した時、顔をあげて笑顔で挨拶してくれる学校、反対に忙しくて余裕がないのか目も合わせてくれない学校もあります。朝早めに行って、学生たちが時間通りに来ていて、みんな楽しそうな雰囲気かどうか等、様子を見るのもいいかもしれません。

――なるほど。

コロナ禍直前に自ら運営するオンライン事業を立ち上げ

――Waka Language Laboratoryを立ち上げられたのはどうしてでしょうか。

コロナ禍になる少し前、非常勤で2校掛け持ちしていたんですが、自分はこういう授業をしたいというのが明確になってきました。初級ではなく中上級で、教科書も決めず、学生のやりたいことに合わせたプライベートレッスンです。実際、所属していた学校でもやっていましたが、他の方に引き継ぐとき、一から説明しなければならないのが大変で、それだったら自分でやったほうがいいんじゃないかと思ったんです。ちょうどタイミングもよかったのだと思います。他の学校がオンラインを始める前でしたし、以前の学生で、帰国するんだけどオンラインでやれるなら勉強を続けたいという人もいて。ホームページと名刺を作って一人で始めました。SNSでも告知しましたが、学習者はすべて口コミですね。

大学院の博士課程で勉強している人、日本で働いている人、外交官の奥様などに教えています。

――中上級を教えたいと思ったのはどうしてでしょうか。

文型や語彙をマスターした後、学習者が表現したい気持ちやスタイルはどんな日本語を使ったらいいのかを一緒に考えるのが好きだったんです。教科書が決まっていないのも面白くて上級にのめりこんだ感じです。今は授業で学習者と『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)や『樹木希林言120の遺言 死ぬときぐらい好きにさせてよ』(宝島社)等を読んで人生観について意見交換したり、日本史を読んで支配階級の出現と身分のありかたについて考えたり、登山やマラソンについてのエッセイを添削しながら専門的な語彙を広げたりしています。

外国ルーツの高校生に日本語支援

――現在、外国ルーツの高校生の日本語支援も行っていると伺いましたが、それはどうやって探したのでしょうか。

高校で日本語支援をやりたい! って思ったんですけど、私もどこで探せばいいのか分からなくて。たまたまインターネットで小中学生に教える仕事を見つけて、応募して面接に出向いたら、実はほぼ小学生に教える仕事ということだったんです。それで、私は面接されている側だったのに、面接官に高校生に教えるのはどこでやっているんですかなんて逆質問して、「杉並区」「荒川区」「多文化共生」で調べるとありますよと教えてもらったんです。調べてみると、都立高校には在京外国人枠というのがあり、その生徒たちの日本語支援は外部委託されていました。外部委託候補が多文化共生センターと分かり、早速連絡して履歴書だけでも送らせてくださいと無理やり送っちゃいました。後でたまたま欠員があったのか分かりませんが、連絡が来て、教えることになりました。

――やはり、「やりたい!」と思う気持ちがある方はどんどん自分で動くんですね。素晴らしい。

今、教え始めて2年目です。2年目から委託先は別のところになりましたが、私はそのまま新しいところに移る形で教えています。今はネパール、モンゴル、中国、トルコがルーツの生徒たちがいます。私は上級を担当していて、主に学校の教科や学校行事とリンクした形の授業を行っています。例えば数学の用語だったら、それを使った文を理解し、その通りに図形をかいてもらうとか、文化祭の催しを説明してもらって、招待状を書くとか。

自分で自分の心を癒す方法を知る

――今回実施された「日本語教師のためのメンタルヘルスケア講座」について教えてください。

以前からコーチングやカウンセリングの勉強はしていましたが、2023年の8月に産業カウンセラーの資格を取りました。産業カウンセラーというのは主に働いている人を対象とした心理的なカウンセラーです。仕事に行くのが辛い等の精神的な悩みを抱える人のカウンセリングや、省庁・企業のメンタルヘルスケア対策の支援等を行っています。私は企業に嘱託はしていないのですが、とにかく教師のメンタルヘルスケアがしたかったんです。それで「教師の心の相談室」というカウンセリング事業を始めました。これは1対1のオンラインカウンセリングになりますが、10月に初めて開催した「日本語教師のためのメンタルヘルスケア講座」では、カウンセリングを受けるのは緊張する、自分でなんとかできないかと悩んでいる先生方に、認知行動療法というカウンセリングでも使われる心理療法や、自分でできるストレスケア等をお伝えできたらと思いました。11月にも開催予定です。

――そういうことをやっていこうと思ったのには何か理由がありますか。

私自身が非常勤で働いていた時に学生アンケートの結果がひどかったことがあったんです。5段階評価で1とか。雰囲気が悪い、他の先生がいいとか。本当に見るのが辛くて泣きそうでした。その時、既に教師歴が20年以上あったんですけど、本当に傷ついてやめようかなと思いました。それでも辞めずにいろいろ勉強して、なんとか頑張ろう!と思ったんですけど、でも、傷ついた気持ちを癒さないと、何を勉強しても満たされないというか、ずっともやもやしちゃって。どうしたらいいんだろうといろいろ悩んでいた時に、カウンセリングを知りました。私の周りにも同じようにアンケートがひどかったとか、実際にうつ状態で辞めてしまう先生もいて、ひょっとしたらカウンセリングやメンタルヘルスケアが必要な先生ってたくさんいるんじゃないかと思い、自分でやりたい! と思いました。

機嫌のいい先生をどんどん増やしていきたい。

――これからやっていきたいことを教えてください。

そうですね。メンタルヘルスケアのことはずっとやって行きたいです。そして機嫌のいい先生をどんどん増やしていきたいんです。私ひとりじゃなくて、この講座を受けた人が周りで悩んでいる人にメンタルヘルスケアの方法を広げていってくれたら嬉しいと思います。日本語学校で、いつも忙しそうでピリピリしている先生が多い、とか、他の先生の機嫌をとらないといけないとかの話を聞くので、機嫌のいい先生が増えて、みんながもっとのびのびと教えられる環境ができるといいと思います。

あ、もちろん、日本語教育についても頑張っていきたいです。

――これから日本語教師を目指す人に何かアドバイスがあればお願いします。

私はカウンセラーの資格を取るまでに、ものすごく失敗ばかりしていて、本当によく試験に受かったなって感じなんですけど、失敗するのも当たり前、できない自分も当たり前、ぐらいの気持ちでやっていくと精神的に楽かなと思います。そういう気持ちでお互い頑張りましょう。

 

取材を終えて

私も経験がありますが、教師という職業柄、なかなかマイナスの評価を人に相談しにくいという背景もありますね。日本語教育界が転換期を迎えている今、不安を感じたり、悩んだりしている日本語教師の方もいるのではないかと思います。一度、自分の心に向き合ってみるのも必要なのかもと思いました。

「日本語教師のためのメンタルヘルスケア」講座は11月23日、11月29日にも開催されるそうです。

また、模擬授業のコツのお話も面白かったです。もっと聞きたい人もいるのでは?

 

▼日本語教師のためのメンタルヘルスケア

ストレスを感じた時にケアする方法や、ストレスを受けても立ち直る耐性(レジリエンス)を身につけるための講座です。

日時:2023年11月23日(木)祝日 14:00~15:00pm JST(オープン1時間前)

          https://kokc.jp/e/4fa7e81409b91901c8c36edc23ac8b67/2547996/
   2023年11月29日(水)20:00~21:00pm JST(オープン1時間前)

          https://kokc.jp/e/4fa7e81409b91901c8c36edc23ac8b67/2547997/

講師:小島若葉(日本語教師×産業カウンセラー)
形式:オンライン
参加費:1,500円 

 

小島若葉さんのホームページ

・教師の心の相談室(オンライン・カウンセリング)

https://kokoro-mental-care.jimdofree.com/     

・Waka Language Laboratory(オンライン日本語プライベートレッスン)

https://waka-language-laboratory.jimdofree.com 

・NERD CHATTING(日本語中上級学習者向けのPodcast)

https://podcasters.spotify.com/pod/show/waka-language

Note 授業のことや学校のこと、最近は教師のストレスケアなどについて書いています。 https://note.com/wakaba21 

 

取材・執筆:仲山淳子

流通業界で働いた後、日本語教師となって約30年。6年前よりフリーランス教師として活動。