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日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

令和5年度日本語教育能力検定試験の振り返り

令和5年度日本語教育能力検定試験は、2023年10月22日(日)に全国7地区・9会場で実施されました。受験された方は、本当にお疲れ様でした! ここでは簡単に試験を振り返っておきます。

全体を通して

前回の令和4年度日本語教育能力検定試験に引き続き、令和5年度も「必須の教育内容」(文化庁)に基づいて出題されました。「必須の教育内容」に基づく試験となっての2回目の試験ということもあり、主要項目を中心に基本的な内容を問う良問が多かったように思います。問題数や形式などについても、前回から特に大きな変化はありませんでした。

試験Ⅰ

試験Ⅰでは、日本語の音声・音韻、語彙、文法、意味など、言語に関する基礎的知識について、満遍なく問われていました。また、言語教育法、言語習得、異文化理解、子どもの日本語習得などの主要分野からも、基本的な重要項目が問われていました。

ここ数年、コロナ禍の影響により一般的になったオンライン授業など、昨今の日本語教育を取り巻く状況を反映した問題も見られました。オンライン授業の形態や特色、オンライン授業で注意が必要な著作権に関してなど、さまざまな角度から出題がなされていました。

待遇表現について大問が1つ作られていたのも注目されます。敬語の5分類については、苦手としている検定受験者も多いのですが、待遇表現は日本語の大きな特徴の一つであり、多くの学習者が使い分けに悩むところでもあります。日本語教師としてしっかりと押さえておきたいところです。

毎回試験Ⅰの後半に出てくる時事問題については、海外の日本語教育と、日本語教員養成について問われていました。国際交流基金の海外の日本語教育機関調査をもとにした出題でしたが、基礎的なデータですので、日本語教師は数値を含めしっかり押さえておくべき内容でした。

試験Ⅱ

試験Ⅱも試験Ⅰ同様、これまでの形式・傾向から大きな変更はありませんでした。

試験Ⅱは毎回、受験者によって得点差がつきやすいところです。今回は、事前に音声に関する基礎的な項目を理解して、しっかりと問題を解く練習を重ねてきた人にとっては、解きやすい問題が多かったのではないかと思います。これまでの試験では、選択肢などに新しい形式が増えたりすることもありましたが、今回は特にそういったことも見られませんでした。

試験Ⅱでは、毎回、日本語母語話者と日本語非母語話者の会話の問題が3題出題されます。これまでは、1題が日本語非母語話者のモノローグ、1題が一般の日本人と日本語非母語話者の会話、1題が日本語教師と日本語学習者の会話という構成でした。今回は、日本語教師と日本語学習者の会話の問題がなく、日本語非母語話者同士の会話の問題が出題されました。日本語非母語話者同士が日本語で会話をする場面も、ごく一般的になってきたからかもしれません。

試験Ⅲ

試験Ⅲは、これまでは回によっては冒頭に音声や文法に関する難問が出題されることがあったのですが、今回は比較的解きやすい問題が多かったようです。

若手教師がベテラン教師に相談する形式の問題や、授業の資料を見ながら解いていく問題など、これまでの形式を踏まえながら、実践的で実際の授業にも役立つような出題が多かったように思います。

今回の試験Ⅲでは、ジェンダーやポリティカル・コレクトネスなど、言葉に反映される社会の価値観などについて扱った出題が目を引きました。日本語教師に求められるものは非常に幅が広いのですが、中でもこういったことの重要性を自覚しているかいないかというのは、言葉を扱う日本語教師にとって非常に大切だと思います。

記述式問題は、これまでも何度も出題されてきたピア・ラーニングについて、一連の活動を提案するという問題でした。今回はキーワードを使って答える形式でした。

試験Ⅲでは他にも、入管法改正、EPA、技能実習制度、特定技能といった昨今の日本語教育を取り巻く諸制度や、外国人人材の受入れ・共生のための総合的対応策、日本語教育の参照枠など、国の動きに関連した設問が並んでおり、今の日本語教師に必要な基礎的知識の有無測定するのに、バランスのとれた出題だったと思います。

何はともかく、受験された皆様は本当にお疲れ様でした。

執筆:新城宏治

株式会社エンガワ代表取締役。日本語教育に関する情報発信、日本語教材やコンテンツの開発・編集制作などを通して、日本語を含めた日本の魅力を世界に伝えたいと思っている。

※日本語ジャーナル上で10月30日(月)15時公開予定!「日本語教育能力検定試験 解答速報」