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日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

たくさん問題を解くことで合格のコツをつかんだ― 山本恵さん

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日本語教育能力検定試験に限らず、試験に合格するにはある種の「コツ」が必要です。特に日本語教育能力検定試験は合格率が3割弱という非常に難しい試験であることに加え、試験範囲が広い、問題数が多い、マークシートや記述式など回答形式が混在しているなどの特殊性があります。こういった試験を乗り切るのに大切なのは「試験に慣れる」ことです。今回は、「合格パック」を使って見事2020年に1回のチャレンジで合格した山本恵さんの試験対策・受験テクニックをご紹介します。(編集部)

山本さんの必勝テクニック

1、過去問を解く

2、リスニングは音声のスピードを意識

3、記述式は書かなくてもアイデアを出すトレーニングを

日本語も英語も教えられる教師に

山本さんは日本の語学系の専門学校を卒業後、イギリスの大学に正規学部入学して、英語言語学と英語教授法を学びました。渡英して2年目にケンブリッジのCELTA*1の資格も取り、日本に帰国したのは2019年の秋のことです。

3年間イギリスで充実したキャンパス生活を送っていた山本さんの周りには「日本語を学びたい」という友達がたくさんいて、日本や日本語についてよく質問されたそうです。例えば、敬称の使い分け(~さんと~ちゃん/君の使い分け、いつ切り替えるべきか、どうやって選んでいるのか)や、数詞(1本、2本、3本など、前に来る数字によって読み方が変化するのはなぜか)などについて、その違いは日本語ネイティブなのですぐに分かるのですが、その理由や背景はうまく説明できない。そんなことにもどかしさを感じていました」と、山本さんは当時を振り返ります。やがて在学していた大学の日本語クラスの学生さんのチューターとして勉強を手伝うようになり、本格的に日本語を教えてみたいと思うようになりました。

「もちろん自分も英語教授法を勉強していましたので、英語ができれば英語の先生になれるとか、日本語ができれば日本語の先生になれるといった甘い考えは持っていませんでした。そこで本格的に日本語教育の勉強をして、日本語教育能力検定試験にも合格しようと思ったのです」。

さらに日本語教育能力検定試験の受験には、もう一つ狙いがあったと山本さんは言います。「実は、海外で語学教師として働こうと思った時に、英語教師だけだとちょっと弱いんですね。でも英語教師と日本語教師の両方の資格を持っていれば強みになると思ったんです」。こうして英語と日本語を両方教えられる教師になることが山本さんの目標になりました。日本語教育能力検定試験の合格は、その大事なステップの一つでした。

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大切なのは合計学習時間より学習回数

山本さんの勉強の仕方は非常にシンプルですが、大変理にかなったものです。それは、「繰り返しテキストを読む」という学習法です。「NAFL日本語教師養成プログラム(以下、NAFL)」のテキストを音読しながら理解していき、ある程度読んだら「ポイントチェック」(各章の終わりにある理解度を確認する問題)で、理解度を確認します。中には、「これ、何だったっけ?」というものも出てきます。そこは、NAFLの該当箇所に戻って確認します。これを繰り返していったそうです。

「とにかく暇があったらNAFLのテキストを開いていましたね。特に、『日本人の言語行動』のテキストは繰り返し読みましたね。『日本人の言語行動』は、あいさつ、お礼やお詫びなど実際のコミュニケーションとしての「言語行動」がどのような仕組みになっているのかを学ぶテキストなのですが、ノンネイティブに説明するのがとても難しいところだったので繰り返し読みました」。イギリスで学んだ英語教授法の内容と重なるところも多く、興味を持ってNAFLのテキストを読み進められたと山本さんは言います。

一方で、いわゆる試験勉強、特にキーワードや用語をひたすら暗記するようなことはしなかったそうです。「キーワードだけを覚えていても試験ではあまり役に立たないんですね。それよりも、テキストを読んでキーワードを含む内容の全体を理解したり、実際の試験問題を解きながら理解していったほうが、実際の試験でも役に立ちました」。試験のためだけではなくしっかりと理解した内容は、試験が終わって日本語を教えるようになってからも役に立つのではないかと山本さんは考えています。

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お勧めしたい3つのテクニック

それでは、山本さんが実践した方法の中で、特に受験される方にお勧めしたい3つのテクニックをご紹介します。

1、過去問を解く

山本さんがテキストを繰り返し読むことと合わせて実践したのが、多くの問題を解くということです。特に試験の過去問題は5年分を一通り解いたそうです。

「日本語教育能力検定試験は記述式を除いてマークシート形式の問題なので、極端に言えば、選べればいいんですね。そのためには、試験に慣れることがとても大切だと思います。たくさん問題を解いていくうちに、コツがつかめてきます。過去問を解く→できなかった問題をチェックする→何が分からなかったのか、なぜ間違えたのかを1問ずつチェックする→次の年の問題を解く。これを5年分行いました」。山本さんのように過去問題を解くことは、日本語教育能力検定試験に限らず、あらゆる試験対策の王道と言っていいでしょう。

「日本語教育能力検定試験の出題範囲は膨大です。その全ての内容を正確に覚えることには無理があると思っています。100%理解できていなくても、試験では選択肢から答えを選べればいいのだ、と割り切ればいいのです。そうしたほうがリラックスして試験に臨めますよ」と、山本さんは受験者に向けてアドバイスしてくれました。

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2、リスニングは音声のスピードを意識

山本さんは試験Ⅱの聴解試験も、合格パックに入っている『日本語教育能力検定試験 合格するための本』の音声や過去問題などを解くことで、コツをつかみ、正解率を上げていきました。聴解試験は特に流れる音声のスピードに慣れることが大切だと言います。

問題2は「学習者の発音上の問題点」を選ぶ問題が出題されますが、最近多いのは、「アクセントの下がり目」「プロミネンス」「拍の長さ」といった1つの要素だけを選ぶ選択肢ではなく、「アクセントの下がり目とプロミネンス」「拍の長さと句末・文末イントネーション」といった、2つの要素を組み合わせた選択肢を選ぶ問題です。1つの要素だけであれば聞き取ることができても、2つの要素を聞き取るのは山本さんも最初は難しかったと言います。

これに対応するのに大切なことは、やはり試験の音声に慣れることです。繰り返し聞いていくことで耳が慣れていきます。そうすると、音声がだんだん早く感じなくなったり、微妙な音の違いが聞き取れるようになっていきます。リスニングは音声のスピードを意識して取り組むのがいいでしょう。

3、記述式は書かなくてもアイデアを出すトレーニングを

試験Ⅲの記述式の対策は最後に回す人が多いと思いますので、実際はあまり対策のための時間がないことも多いのではないでしょうか。実は山本さんもそうだったと言います。そんな中で山本さんが取った方法は、実際には紙に書かなくても、どう書くかを頭の中でシミュレーションすることだったそうです。「合格パックの中に入っていた『改訂版 日本語教育能力検定試験に合格するための記述式40』の問題を見て、自分だったらどう書くだろうかと頭の中でアイデアを巡らしました。構成を考えて、どんなキーワードが使えるかなど、あれこれと考えました」。

7月にNAFLの課題として記述式の問題を2題提出した後は、実際に400字の答案を書いたのは、本格的な記述式対策としては試験当日までに10回程度だったそうです。それでも、記述式問題を含め、これまで知識やトレーニングを積み上げてきたという自信を持って試験当日に臨めたそうです。

日本で経験を積んでイギリスへ

世界的にコロナが収束していない現在、今後の進路はいろいろと考えているという山本さんですが、まずは日本で日本語教師の経験を積んでから、イギリスの大学へ戻りたいと言います。

「イギリスの英語教授法の修士課程のコースの中には、実際に教えた経験が条件として必要になるコースもあります。教えてみないとわからないこと、また、その経験から研究テーマが見つかることが多くあるからです。英語と日本語は言語としては大きく違いますが、言語を教えるという点から見れば共通項がとても多いです。まずは、日本で日本語教師の経験を積み、日本語教師と英語教師の二つの資格と経験を強みにして海外でも活動出来たらと思っています。」と、山本さんは大きな夢を語ってくれました。

世界では多くの人たちが、アフターコロナを見据えて山本さんのように着々と準備をしていることと思います。早くコロナが収まり、多くの夢を持った人たちが再び国境を越えて往来できる日が1日も早く来ることを願ってやみません。

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*1:CELTA (Certificate in Teaching English to Speakers of Other Languages)は、英語を母国語としない人に対する英語教授法資格。英語母語話者または同等の英語力を持つ方を対象とした資格で、世界中で英語教師として採用される条件に用いられてる。