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日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

合格パックでD判定の雪辱を果たした「逆算力」—小野山純子さん

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日本語教育能力検定試験は合格率が3割弱という非常に難しい試験のため、2度、3度と挑戦する方がたくさんいらっしゃいます。1回目の受験でD判定(Aに近づくほど合格が近くなります)でありながら、見事2020年に合格した小野山純子さんの試験対策・受験テクニックをご紹介します。これから検定試験を目指す人にとって参考になる具体的なヒントがたくさんあります。(編集部)

小野山さんの必勝テクニック

1、マークシートは常識で解ける設問を優先

2、音声を見直す時間はある

3、記述式の回答のフォーマット化

外国人社員の接客・マナーの研修ニーズ

小野山さんは元アナウンサーというキャリアを生かし、現在は兵庫県で「芦屋話し方教室(https://ashiya-c.com/)」を主宰しています。話し方を中心に、立ち居振る舞いや相手からの印象を上げる方法なども指導でき、多くの企業からの社員研修も受託しています。この中で、最近多いのが外国人社員を対象にした接客・ビジネスマナーの研修依頼です。そこで小野山さんは「国籍に関係なく働く人の自己実現を後押しする研修講師になりたい」と思い、日本語教師に関心を持つようになりました。しかし、2018年に日本語教育能力検定試験を受験するものの、結果は残念ながら不合格でした。

「直前に市販の参考書はいろいろと買い込んだのですが、時間がなくてほとんど勉強できず不合格でした。当時は、試験の設問の意味すらチンプンカンプン。結果はD判定で、合格までは随分と遠いと感じました」と、小野山さんは当時を振り返ります。

それから1年のインターバルを置いて、やはり話し方に加え日本語もきちんと教えられる講師になりたいという気持ちが高まり、2020年3月末に「日本語教育能力検定試験合格パック(以下、合格パック)」に申し込みました。しかし、勉強に手をつけたのは5月末。試験当日までは5カ月を切っていました。

「4~5月はコロナの影響で、対面で行っていた研修をオンラインで行うようになったり、ステイホームでオンラインの話し方レッスンの需要が高まったりして、仕事のほうも忙しくなっていった時期でした。とにかく時間がない中で、試験当日までの日数を逆算して勉強方法を決めました。アナウンサーをしていたので、そういった段取りや効率化は得意なんです(笑)」。小野山さんが実践した方法は、実に具体的で的を射た方法でした。

時間がない中での効率的な勉強法を模索

「合格パック」は、「NAFL日本語教師養成プログラム(以下、NAFL)」と日本語教育能力検定試験対策の副教材、そしてさまざまなサービスで構成されています。小野山さんは、まずNAFLを4カ月で2 周しました。1周目はポイントを理解してキーワードに下線を引きながら、2週目は下線のキーワードのみに目を通しました。各章の最後に付いている「ポイントチェック」で自分が正しく理解できているかを確認しました。そうすると、「ポイントチェック」で間違えた問題は下線を引いていなかったことが多かったそうです。

大切なのは、学習を止めないこと。順番にテキストを読むのではなく、比較的興味を持てそうなところから読んでいくといいと思います。1周目で理解できなくても、何となくその分野の試験の傾向が分かってきます」と、小野山さんは継続の大切さを強調します。

その上で、どうしても分からないところが出てきたら、副教材の『合格するための用語集』で確認し、仕上げに『合格するための問題集』を一通り解きました。ただ、『合格するための問題集』に着手できたのは、本番直前の10月になってからだそうです。また、『合格するための用語集』はサイズがコンパクトなこともあり、電車移動中によく読んだそうです。とにかく忙しい中で、空いている時間を有効に活用した様子がよく分かります。

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お勧めしたい3つのテクニック

それでは、小野山さんが実践した方法の中で、特に受験される方にお勧めしたい3つのテクニックをご紹介します。

1、時間が足りなくなったらマークシートは常識で解ける設問を優先

まずは、問題を解く順番についてです。小野山さんは「一般的」な順番とは異なった順番で本番の試験に取り組みました。

一般的な順番  :問題文を読む→設問を読む→選択肢を読む→選択肢を選ぶ

小野山さんの場合:設問を読む→簡単なもの・常識で解けそうなものだったら→選択肢を読む→選択肢を選ぶ

問題文は長いので読むのに非常に時間がかかります。また、問題文を読んだ結果、結局難しくてよく分からない、すぐには解けないとなれば、問題文を読んだ時間が無駄になります。小野山さんの感覚では「常識で解ける問題(設問?)は全体の1割程度」とのことですので、時間が足りなくなったら、まずはその1割を優先して解くことで、確実に点数を上げることができました。日本語教育能力検定試験は試験時間の割に非常に問題数が多いので、スピーディーに問題を解いていかないと最後まで問題を解き終えることができません。小野山さんのテクニックは、そのような試験の特徴を考えても、非常に理にかなった方法だと思います。

2、音声を見直す時間はある

多くの人が苦手とする試験Ⅱの聴解試験は、一般的には「試験終了後に見直す時間はない」と言われています。しかし、「各問題の合間には次の問題に移るまでに結構な時間があり、その間に耳に残った音声を思い出して確認したり、選択肢を選び直したりすることは可能」と、小野山さんは考えます。

問題1のアクセント問題を例に考えてみましょう。アクセント核(アクセントが下がるところ)を正しく見つけるのが正解への近道ですが、第1問の音声が流れたらまずは問題冊子のほうにアクセント核の印を付けておきます。その上で、第2問の音声が流れる前に、耳に残った音声を頭の中で反芻しながら、正しい答えをマークシートにマークするようにしたそうです。

試験本番は誰もが緊張しており、日頃であればしないような間違いや勘違いをしてしまうものです。しかし、小野山さんのような方法を取れば、着実に正解を選ぶことができるでしょう。ちなみに小野山さんの試験Ⅱの自己採点では、9割できていたそうです。

3、記述式のフォーマット化

日頃、小論文のような文章を書きなれている人はむしろ少ないと思います。小野山さんも、副教材の『改訂版 日本語教育能力検定試験に合格するための記述式問題40』を読んだ時は、日常生活であまり使わないような(日本語の)表現が多いことに戸惑ったそうです。そこで、小野山さんが考えたのが、これまでに書いたことがないような表現や使い勝手が良い言葉、文章構成を抜き出してまとめ、それを覚えたことです。その一部を紹介してもらいましょう。

必要である/可能性がある

方法がある/長所がある

と考える/と思われる/考えられる

まず◯の基礎を指導する。○の指導を学習した後は、並行して◯の指導を取り入れる。○は、広く会話だけでなく読み書きにも使われている。◯を学べば、◯の場合でも意思の疎通ができるし、◯を学べばより良い人間関係を築ける。

◯を習得するまでは、◯は指導しない。◯は、◯を習得後に、学習すれば良い。◯がわかればある程度は会話は通じる。公共放送や新聞、雑誌にも使われているので、わからないと生活情報が取れず、◯のやりとりにも不便だからだ。

試験本番でゼロから考えるより、こういった準備をしておけば本番ではそのストックの中から使えそうなものを使えばいいでしょう。〇に言葉を入れ替えて使える「記述式問題用のフォーマット」とも言えます。

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キャリアを生かし強みを持った日本語教師に

見事2回目のチャレンジで日本語教育能力検定試験に合格した小野山さん。まずはオンラインで日本語を教え始める予定です。特に中上級者向けのプレゼン、ビジネス日本語、敬語などを中心にしたプログラムを展開していきたいと夢が膨らみます。特に、外国人が職場で困った時に、社会人として「角を立てずに」断ったり、自分の意思をうまく相手に伝えたりする日本語を教えることで、日本で働く外国人の力になりたいと考えています。

「アナウンサー時代に培った音声についての強みと、研修講師で培った日本社会や日本企業で生きていくために必要なコミュニケーションのノウハウと、その2つの強みを持った日本語教師になりたいと思います」と力強く語ってくれた小野山さん。今後の活躍を大いに期待したいと思います。

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