NJ

日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

学習者が来なくなった日本語教室、どう立て直す?(北海道江別市) 

2024年3月1日にトークサロン「学習者が来なくなった日本語教室、どう立て直す?-共生のまちづくりを目指す活動を通して見えてきたこと」がオンラインで開催されます。このトークサロンで話題提供を行う、北海道江別市の平田未季さんに、取り組みの背景をうかがいました。(深江新太郎)

地域日本語どっとねっと主催 トークサロン 詳細はこちらから

活動の舞台は北海道江別市

―― 実は、今回開催するトークサロンですが、平田さんの論文を読んで、地域日本語どっとねっとのメンバーに平田さんのお話を聞いてみたいと相談したのが始まりなんですよ。そのトークサロンの前に、平田さんの取り組みの背景をご紹介いただけますか。

私は、北海道の江別市で活動をしています。江別市は、札幌市に隣接しているので、日本人の人口がそんなに減っているわけではないんです。産業は、農業や酪農の第一次産業、製造業の第二次産業が盛んなため、技能実習生や特定技能の方がすごく多いです。それに加えて、中古自動車販売業をしているパキスタンの人が増えています。パキスタンの人たちは、技術・人文・国際業務のビザで家族を連れて来られるからです。ただ、このように外国人が増えているけれど、地域の日本人の方々は、その状況を全然知らないというのが印象的です。

そんな江別市には、1990年代に市民の有志が立ち上げ、活動をしている団体である、江別国際交流推進協議会があります。その事務局である江別国際センターが、日本語教室を行っているのですが、その活動が今の江別の状況を一般の市民に可視化するようなものになっていなくて、学習者が一人か二人だったり、最初は来ても後から来なくなったりしました。北海道はそういう地域が多いんです。

最初は、ちょっとえらそうなんですけれど、やり方が悪いのかなと思いました。いろんな事情があって、学校型の教室だったので。ですが、そのうち、日本語教室自体が難しいのかな、と思うようになりました。日本語教室をやっているかぎり、一般の市民もなかなか入ってこられないし。顔を合わせながら、対等に話せる場が欲しいなと思うようになりました。

日本語教室とは別の形をめざず

―― 日本語教室というのは、日本語を教える教室ということですか。

はい、文型シラバスの教科書を使った教室です。私自身、それとは異なる形の自由におしゃべりをするような活動をアドバイスしたこともあったのですが、ただ、教科書を使って日本語を教えるという形だから来る人がいるということにも気づきました。例えば、パキスタンの人達です。パキスタンの人達はビジネスも生活も自分たちでやっていて、ビジネスのために日本に来ているから、日本人と交流する意味はあまり感じていませんでした。でも、仕事で日本語を使うから日本語がもう少し上手になりたいという思いがあります。日本語を教えてもらえる教室だから来たんだと思います。

―― なるほど。では、その後、どのように関わったのですか。

今回のテーマは「立て直す」ですが、全然、立て直してないんです(笑)。日本語を教える教室には、それを必要としている人がいます。だから、立て直すというより別の形の活動を並行して行うことにしました。日本語教室は今の形のまま行われ補償教育の場となっていて、それとは別に市民同士の相互学習、つまり社会教育の場をつくりました。その際、日本語教室という冠をつける必要はないんじゃないかーーと思いました。教室と言うと、そのことばから強く喚起される「教える」ー「教えられる」という枠組みがあるため、できることが狭まってしまうからです。江別市には、すでに日本語教室があるので、それとは別の形をめざしました。

交流型日本語教室の難しさ

―― その別の形は、交流型日本語教室とも別でしょうか。

交流型の日本語教室は対等に出会える場としてはとても大切だと思います。ただ、より意味のあることを話したいという思いを持っている人がいるのではないでしょうか。具体的には、地域で当事者として扱われるということです。「話をしよう、交流しよう」では、先のパキスタンの人は集まりません。でも、「あなたは街の当事者です。街づくりについて意見を聞かせてください。街についていっしょに話しましょう」だったら、来る人は増えるのではないかと思いました。

―― なるほど。先日、福岡県のある自治体から話を聞いたのですが、その地域は技能実習生が多い地域で、月1回の日本語教室開講をめざしています。その事前のヒアリングで、技能実習生は、週1回の休みは部屋でスマホを使ってごろごろしている、ということでした。その人たちが来たくなるためには、何かしらの動機が必要ですよね。

はい。前よりも、日本語を勉強したいとか、交流して日本語を使いたいと思っていない人もけっこういるんじゃないかと思います。同じ国の人が増えて、そのコミュニティが強固なものにもなっているので。その状況の中で交流型の教室の難しさの1つは、世代が違いすぎて交流が起きにくいという点です。交流型の教室に行っても、話し相手は年上の人ばかりという状況だと、参加する動機とはなかなかならないと思います。

―― 参加する動機が持てる活動について考える必要があるのですね。その中身そのものは3月1日のトークサロンで、ですね。

ええっ、そうなんですか(笑)。

SHAKE★HOKKAIDOについて

―― では最後に、平田さんが取り組んでいるSHAKE★HOKKAIDOについて、ご紹介いただけますか。

SHAKE★HOKKAIDO

北海道って、共生の後進地域って言われるんですね。北海道が地域の日本語教育に取り組み始めたのは、日本語教育推進法ができてからです。北海道って本当に広くて、日本の5分の1が北海道なんです(笑)。その各地で、情熱を持った有志の方たちが、日本語教室に携わっているのですが、お互いが何をやっているか、知ることができない状況でした。例えば、札幌で研修会のようなものをやっても距離の問題で来ることができないんです。このように交流が生まれにくい状況なので、まず、だれが、どこで、何をやっているのか互いに知り合うことが大切だと思いました。また、これから、行政・自治体主導で地域の日本語教育が動き始めるので、現場の方と最新の情報を共有したいという思いもありました。このように情報共有、情報提供の場をつくりたいと思い、始めた活動です。

―― 主な活動にはどのようなものがありますか。

はい、1月のシンポジウムがメインです。コロナの時に始まったから、オンラインなんですが、オンラインって、すごいなって思います。何より、距離の問題を解消するからです。ただ一方で、オンラインではアクセスできない高齢の方がいるし、対面の交流を望む声もあるので、同時に旭川、帯広、北見、釧路、函館にサテライト会場を設けています。応援上演のような感じで、札幌から配信する映像を見ることができる場所です。その会場では、全然まじめに聞く必要はないし、話してつっこみながら聞いてもいいし、おかしを食べながらでもいいんです。このような形で、必要な情報を伝えると同時に、地域での交流の場を確保するようにしています。

むすび

平田さんのお話を聞きながら、地元の情熱を持った方たちが活動する姿にとても心ひかれました。平田さんは、そのような住民の方たちと共に活動しながら、同時にこれまでにない新たな活動形態を提案し、実践しています。3月1日のトークサロンがより楽しみになりました。お時間許す方はぜひトークサロンにご参加ください。また、この話の続きはトークサロン開催後に掲載予定です。

 

●地域日本語どっとねっとトークサロン

学習者が来なくなった日本語教室、どう立て直す?
-共生のまちづくりをめざす活動を通して見えてきたこと-

日時:2024 年 3 月 1 日(金)19 時 30 分~20 時 30 分 

形式:オンライン(zoom 使用)

参加費:無料

プロフィール

平田 未季(ひらた みき):協力隊でシリア・イエメンで日本語教育にかかわったのち、秋田大学を経て現職。大学で日本語教育を行うかたわら、SHAKE★HOKKAIDOを主宰し、北海道で日本語学習支援および共生支援に関わる人たちをゆるやかにつなぐ活動を行うとともに、演劇の手法を用いた共生のまちづくりワークショップに取り組む

執筆

深江 新太郎(ふかえ しんたろう):「在住外国人が自分らしく生活できるような小さな支援を行う」をミッションとしたNPO多文化共生プロジェクト代表。ほかに福岡県と福岡市が取り組む「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」のアドバイザー、コーディネータ―。文化庁委嘱・地域日本語教育アドバイザーなど。著書に『生活者としての外国人向け 私らしく暮らすための日本語ワークブック』(アルク)がある。