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日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

「日本語教師の自習室」運営江崎由美子さん~「触媒」をめざしていきたい

以前「日本語教師プロファイル」でインタビューさせていただいたCHEERS代表の江崎由美子さんは名古屋市で、日本語教師が自習したり、本を調べたり、おしゃべりしたりできる場所「日本語教師の自習室」を運営しています。それは、市内でも昔ながらの街並みが残る那古野というエリアの一角、コワーキングスペースの中にありました。11月のある日曜日の夕方、「日本語教師の自習室」を訪れ、お話を伺ってきました。

いろいろな人がいて、出会いがあるのがコワーキングスペース

この左の通路を入った奥にテラコワが

――素敵な場所ですね。ここはどんな所なのか教えてください。

テラコワというコワーキングスペースで、いろいろな方が仕事をしていらっしゃいます。エンジニアの方、会社経営者の方、整体師の方もいらっしゃいます。以前は別の場所を借りていましたが、ミーティングでここに来て、いいなあと思い、ちょうど空いていたので最初は1部屋だけ借りました。隣の部屋がずっと開いていたので、ここに本棚を置いたら面白いかなと思い、そちらも借りることにしました。

――コワーキングスペースを借りようと思ったのはどうしてでしょうか。

いろいろな方がいらっしゃって、出会いがあるからですね。日本語教育の中だけに固まってしまうと、情報も同じようなものばかりになりますし、外から日本語教育をどう見ているのか感じられたり、何やってるの?なんてところから話すのも楽しいですし。

借りていたコワーキングスペースで日時限定の「日本語教師の自習室」を

――オフィスとして借りていたコワーキングスペースで「日本語教師の自習室」を始めたのはどうしてでしょうか。

ちょっと長くなりますけど(笑い)

もともと本屋が好きで、図書館が好き。本が好きと言うより本屋という場所が好きで、1時間いても飽きません。大学生の時、指導の先生の研究室が面白くて、先生の書棚を見るのが楽しかった。それで私も欲しいなぁと思ったんです。卒論を書いていた時、そこにいろんな人が集まってきて、いろんなことをしゃべったり、先生と話してうーんと考えたりするのも面白いと思っていました。それから図書館にあった自習室の感じも好きで、他の学校の人と友達になったり、本当はやっちゃいけないけど雑談したりというあの感じが凄く好きだった。それを日本語教育にあてはめることができないかなと思ったのが一つです。

二つ目はずっと日本語教育に携わってきて、自分も教えますけど、他の先生の相談を受けたり、同僚と食事に行っていろいろ話したりすることがあって。キャリアコンサルタントの資格も取ったのでキャリア相談なんかもやっているんですけど、そういったことをバラバラにやるより、ひとつにまとめちゃおうと思ったことです。ここでそういうことができるんじゃないかと。

三つ目はね、家に本が溢れているんです。貯まってきたのはいいが、眠っている本だらけで。実は私、本を買う時、古本を好んで買うんです。特に大学の先生が書かれた本は、たいがい大学生が売っているんですが、おそらく著者の先生が大事だぞと思っているところに線が引いてあったり、書き込みがあったりするのが面白くて。ここに引いてあるんだ、へぇーって思ったり。私も結構本に書くのが好きなんですが、それって図書館ではできないし、ましてや本屋でもできない。でも私がそんな本が好きなんだから他にも同じような人がいるかもしれないと思い、じゃあ、自宅からここに本を持ってこようかと思ったんです。

――そういう思いで「日本語教師の自習室」をオープンさせたんですね。ここは常設ではないんですよね。

はい、大体金、日の午後で、月に6日間程度開いています。詳しくはFacebook、インスタグラムを見て頂けると助かります。

「日本語教師の自習室」は「つながる・つなぐ」場

ここで自習や話し合いができます。

――「日本語教師の自習室」ではどんなことができるのでしょうか。

「日本語教師の自習室」の時間は、共有スペースにある机が使えるので、本棚にある本を見て自習してもいいし、教案を作ったりしても。お友達と来て、ずっと教科書を広げて検討している方もいらっしゃいました。私はここにいますので、教案を作るのに行き詰ったりすれば、相談に乗ることもできます。

――え?教案の相談にも乗っていただけるんですか。

はい、個別のキャリア相談や教案指導に発展することもありますが、誰が聞いていてもいい状態でのご相談なら利用料に含まれています。これから日本語教師を目指したいんだけどという方には養成講座のご相談やテキストのご相談にも乗れます。それからいろいろな方が偶然居合わせた場合、お友達になれるようにつなぐことができます。私はどちらかというとそうやってつなぐことをしていきたいという思いがあります。「今日から明日へつなぐ」「人と人がつながる」「考えていることが形になってつながる」そんなことがここでできないかなと思っています。

――ところでFacebook等の告知ではプレオープンとなっているのですが、まだ正式にはオープンしていないということでしょうか。プレオープンとオープンの違いは?

いや、意味はたいしてないんです。

というのは、すごく固めて完成形で始めるより、やりながら作っていこうと思って。始めたのが4月でもう8か月近くプレオープンの状態ですが、プレオープンは2023年11月までの予定です。プレオープン中はディスカウントしているので利用料が2時間で300円ですが、オープンすると正規料金の2時間500円になります。

それからオリジナルのグッズを作ります!まずはトートバッグ。なぜトートバッグかというと、好きだから。(笑い)ステッカーも作るつもりです。

――トートバッグは教材も入れられていいですね!

「触媒」をめざしていく

――「日本語教師の自習室」というタイトルでポッドキャストも配信されていると伺いましたが。

はい。こちらはゲストの方に本を1冊または2冊ご紹介いただき、その本を通してご自身の日本語教育への思いをお話しいただいています。その収録もここでやっているんです。ポッドキャストはそれこそメディアですよね。

この場所を作ろうと思った時、一番しっくり来た言葉が「触媒」なんです。くっつけるとか、つなげていく、そういうことは、おそらくどれだけでもやれるんだろうなという気がしています。すごくキメキメに決めて何かをやるんではなく、そこにあったライブ感を大事にしていけば、より良い展開や発展になるだろうと、そう期待しながらこの場所を運営していきたいと思っています。

――これから、どういうふうにやっていきたいですか。

これからどうするの?ってよく聞かれるんですが、実は今後のことは決めないことにしているんです。それは一昨年の今頃、こんなことをやっているなんて思っていなかったから。でも、今このようになっているのも先に決めてしまわないからなんだろうなと思います。ただ、「触媒」という考え方はずっと持っていて、具体的な形としてまとめていくことはしていきたいです。

実は名古屋に面白い本屋さんがあるのですが、そういう方が自分で本屋を立ち上げた話が刺激的で、それが「日本語教師の自習室」を作る時にも大きかったのです。そうやって受けた刺激を自分なりの形にしてやっていけたらいいなと思います。

 

取材を終えて

「日本語教師の自習室」で迎えてくれた江崎さんは「私、そもそも人と喋るのが好きなんです」とおっしゃっていました。取材が終わった後も、いろいろなおしゃべりが尽きませんでした。

江崎さんは日本語教師のコミュニティCHEERS代表として読書会や講座も行っていますので、是非Facebookページをチェックしてみてください。

※「日本語教師の自習室」オープン日はCHEERSのページで確認してください。オープンは月に6日程度です。予約は必要ないそうです。

CHEERSのFacebookページ:https://www.facebook.com/nihongo.teachers.nagoya

Spotify ポッドキャスト「日本語教師の自習室」:

https://open.spotify.com/show/1YnmXwF8Xp0DWE4KcvwJ3b?si=VGhdFkiTTq2n6OeDYHHy9g

取材・執筆:仲山淳子

流通業界で働いた後、日本語教師となって約30年。5年前よりフリーランス教師として活動。