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日本語教育能力検定試験の“新”出題範囲対策3~言語と心理

令和4年度日本語教育能力検定試験は2022年10月23日(日)に行われます。出願期間は2022年8月1日(月)まで(当日消印有効)でした。受験される皆さんは、出願は無事済ませましたか? 出願してしまえば、後は本番までひたすら頑張るだけです。ここでは令和4年度の日本語教育能力検定試験の出題範囲に新しく追加された項目を中心に解説していきます。

令和4年度の試験から何がどう変わるのか

令和4年度日本語教育能力検定試験から、「必須の教育内容」(文化庁)に基づいて出題されるようになります。

令和4年度日本語教育能力検定試験 出題範囲

http://www.jees.or.jp/jltct/range.htm

「必須の教育内容」とは、文化庁が「日本語教育人材の在り方について(報告)改訂版」(平成31年)において、日本語教師の養成における教育内容として示したものです。文化庁では平成12年に日本語教員養成における教育内容(平成12年教育内容)を示しており、「必須の教育内容」はこの枠組みを踏襲しています。令和3年度までの旧出題範囲も「必須の教育内容」と同様に「平成12年教育内容」に基づいています。つまり令和3年度の試験も令和4年度の試験も元(平成12年教育内容)は同じなので、出題内容が全面的に変わるというではありません。

とは言うものの、「必須の教育内容」を詳細に見ていくと、令和3年度までの出題範囲の「主要項目」にはなかったものが示されています。その中で、出題範囲の5区分の「言語と心理」には、以下の項目が新しく立てられています。

 

・言語学習

・日本語の学習・教育の情意的側面

 

今回はこの中の「日本語の学習・教育の情意的側面」について考えてみましょう。

クラッシェンの第二言語習得仮説

まず、日本語教育能力検定試験に頻出のクラッシェンの第二言語習得仮説を確認しておきましょう。すぐに5つの仮説の内容を思い出せなかった方は、参考書やWEBなどで確認しておいてください。簡単に説明すると以下のようになります。

 

クラッシェンの第二言語習得仮説

習得学習仮説~習得と学習は異なる

自然習得順序仮説~言語には習得順序がある

モニター仮説~学習はモニターのために機能する

インプット仮説~「i+1」のインプットで進歩する

情意フィルター仮説~不安は第二言語習得を阻害する

 

今回は、この最後の情意フィルター仮説と関係が深い話です。

マイナスの要素~第二言語不安

授業中に感じる「不安」などのネガティブな感情(第二言語不安)は、第二言語の習得を妨げると言われています。

皆さんも中学校や高校の英語の授業中に、「不安」を感じたことがなかったでしょうか。「間違えたらどうしよう」「変な発音だったらどうしよう」「先生から指名されたらどうしよう」「こんな質問をしたら周りから笑われるのではないか」など、不安の種は尽きません。

第二言語不安は、言語のインプット、言語処理、言語のアウトプット(産出)など、言語習得の全ての過程に影響すると言われています。

また、学習者が「どこに不安を感じるか」は学習者によってさまざまですが、間違いや発話といったアウトプットの際の不安、教師からの指名に対する不安といったものが一般的には多く見られます。また、周りの学習者に対する不安、授業の進度に対する不安、教師の自分に対する評価に対する不安といったものもあります。

中でも日本語教育と関係が深いのが聴解に対する不安です。つまり、教師の言っていることが分からない、周りの話していることが分からないといった不安です。これは、日本語教育で多く用いられている直接法と関係が深いと思われます。媒介語があればこの不安はかなり軽減されると思いますが、全く媒介語がない場合、「先生の言っていることが全く分からない」といった事態も起こりえます。

これを体験する方法として、これまで全く学んだことがない外国語を直接法だけでその外国語のネイティブから学ぶというものがあります。学習者の第二言語習得不安を追体験することができますので、一度は試してみるみるといいと思います。

プラスの要素~動機づけと自信

このような不安を取り除く要素の一つが動機付けです。一般的に動機づけが強ければ強いほど、情意フィルターを下げると言われています。動機づけでは以下の2つの代表的な分け方が日本語教育能力検定試験によく出題されます。

 

内発的道具づけ:学習そのものに対する関心など、学習者の内部から生まれる動機づけ。

外発的道具づけ:周りからの称賛や報酬など、外部から生まれる動機づけ。

 

統合的道具づけ:目標言語を話す社会の中に入りたい、という欲求から生まれる動機づけ。

道具的動機づけ:目標言語を習得することで就職や昇進など実利を得たい、という欲求から生まれる動機づけ。

 

学習者が強い動機づけをもって学習を継続し、小さな成功体験を積み重ね、徐々に不安要素を軽減して自信を付けていくことで、最終的に学習者が目標とする日本語力を身に付けられるように伴走していくのが日本語教師の役割でもあります。そのため、日本語教育能力検定試験でも「日本語の学習・教育の情意的側面」が重視されているのだと思われます。

令和4年度受験予定の方は計画的な準備を

令和4年度の日本語教区能力検定試験を受験される予定の方は、定期的に実施団体である日本国際教育協会(JEES)のウェブサイトをチェックしましょう。特に試験日が近づいてくると、さまざまな情報がアップデートされることがあります。皆さんのご健闘をお祈りします。

 

日本国際教育協会(JEES)日本語教育能力検定試験

http://www.jees.or.jp/jltct/index.htm

 

執筆:新城宏治

株式会社エンガワ代表取締役。日本語教育に関する情報発信、日本語教材やコンテンツの開発・編集制作などを通して、日本語を含めた日本の良さを世界に伝えたいと思っている。