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令和4年度日本語教育能力検定試験を振り返る――難化傾向への対策

令和4年度日本語教育能力検定試験は2022年10月23日(日)に行われました。当日は全国的に晴天にも恵まれ、合計9会場で試験が実施されました。受験された皆さんは、出来はどうだったでしょうか。ここでは令和4年度の日本語教育能力検定試験について、改めて振り返ります。

出題傾向は変わらないが、予想以上に難しかったという声

令和4年度日本語教育能力検定試験は、「必須の教育内容」(文化庁)に基づいて出題されることになって初めての試験でした。そのため、出題傾向や出題形式に何らかの変化がある可能性もありましたが、特に大きな変化はありませんでした(試験Ⅲの記述式問題は令和2年度の形式に戻って、提示されたキーワードを使って答える形式になっていました)。その点では、試験対策においては過去問を中心に出題傾向や出題形式に慣れておくことが非常に大切だったと思います。

しかしながら、試験終了後に受験された方にお話を聞くと、「予想以上に難しかった」「時間が足りなかった」「合格できるかまったく自信がない」といった悲観的な声が多く聞かれました。実際に受験された方の中には、試験問題自体が難しくなっているという印象を持った方が多かったようです。

実際に試験自体は難しくなっているのでしょうか。筆者は試験当日の夜に、実際の受験者に集まっていただいて「答え合わせ」の会を行いました。そうしたところ、受験者によって、結構答えが割れていることが分かりました。

試験前半にいきなり難問

まず、試験Ⅰ、Ⅱ、Ⅲで共通していたのは、試験前半と後半に難問(答えが割れた問題)があったことです。試験の後半にある程度の難問があるのはやむを得ないとして、前半の難問に引っかかって時間を使ってしまい、最後まで解けなかった、あるいは後半で焦ってミスをしてしまったという方が多かったようです。試験の前半で比較的答えが割れたのは、例えば以下のような問題でした。

 

試験Ⅰ……問題3-Dなど

試験Ⅲ……問題1、問題2の問4など

 

特に試験Ⅲの問題1の音声に関する問題は、試験全体の中でも難しかった問題の一つかもしれません。このような難問が試験の最初に出て来てしまうと、「1問目から解けない、、、」「自分には無理かも、、、」と、心が折れてしまう受験者がいても不思議ではありません。

対策はただ一つ。難しい問題はスキップして、後から解くことです。易しい問題も難問も配点はすべて1点です。受験される方は、試験の最初から難しい問題が出るかもしれないと心に留めておきましょう。

試験Ⅱの選択肢の複雑化

試験の難化が分かりやすい形で表れているのは試験Ⅱです。試験Ⅱは毎年試験形式がほぼ決まっており、年度ごとの比較がしやすいのですが、過去の問題と比較してみると選択肢が複雑になっていることが分かります。

問題1はアクセントについての問題で、選択肢はすべてアクセント形式が示されており、音声と一致するアクセント形式を選ぶという問題です。以前であれば、各選択肢のアクセント形式はかなり違いが明確になっており、2回読み上げられる音声の1回目で2択に絞り、2回目で正解を選ぶようなことが可能でした。しかし、令和4年度の問題では、非常に似通ったアクセント形式の選択肢が4つ並んでおり、1音1音の違いを正確に聞き取らないと正解が選べないような問題が、特に問題1の後半に増えていたようです。

また、問題2はプロソディ(アクセント、イントネーション、拍、プロミネンスなど)の違いを聞き取る問題、問題3は単音の調音点や調音法の違いなどを聞き取る問題ですが、以前は選択肢は「アクセントの下がり目」「プロミネンス」など一つの要素の違いを聞き取ればいい問題が多かったのですが、最近は「アクセントの下がり目とプロミネンス」のように二つの要素を聞き取らせる選択肢がかなり増えました。それだけ、受験者の聞き取りの負担は増え、問題としての難易度は上がっていると思われます。

試験Ⅱの対策は、音声のスピードと試験問題に慣れることに尽きます。問題に十分に慣れないうちに本試験を受験しても、合格点を取るのはなかなか難しいでしょう。

NOT問題の増加

令和3年度の試験から顕著に見られた傾向ですが、「選択肢の中から不適当なものを選べ」というNOT問題が増えています。ちなみに令和4年度では、試験Ⅰに12個(問題2を除く)、試験Ⅲに11個のNOT問題がありました。

NOT問題において正解を選ぶためには、他の3つの選択肢正しいということを確認しなければなりません。つまり、受験者にはすべての選択肢に漏れなく目を通し、すべての選択肢の正誤を判断するための時間が必要になります。これにより問題としての難易度は大いに上がっています。

また、試験の時には緊張したり焦ったりしていることも多いので、NOT問題を「正しいものを選ぶ問題」と読み間違えてしまうミスも増えているのではないかと思います(筆者もよくやってしまうミスです)。

対策としては、各項目について表層的な用語の暗記ではなく、その内容を深くしっかり理解をしておくことが大切です。また試験問題を落ち着いてよく読むことなはもちろんですが、タイムマネジメントを意識して試験対策に取り組むのがいいでしょう。

かなり細かい知識を問う問題

試験Ⅲの後半には細かい知識を問う問題が出題されます。知っていれば解けますが、知らなければ解けないという問題です。中には、正直「日本語教師になるにはここまで知らなければならないのか」と思われるような問題が出題されることもあります。

例えば、令和4年度の試験では、留学生の資格外活動のアルバイト先やアルバイト時間の制限について細かく問うような問題がありました。これは、実際に日本語学校などで留学生の相談に乗っておられるような方ならご存じなのかもしれませんが、参考書等にもあまり書いてないことだと思いますし、一般にはあまり知られていないことなのではないかと思います。

もとより日本語教育能力検定試験の出題範囲は極めて広く、満点を狙うような試験ではありません。すべての問題に答えられなくてもいいという割り切りと、それでもあらゆることに興味を持って調べてみよう・考えてみようという好奇心と、受験者の皆様はその両方を持って試験に取り組んでいただくのがいいのではないかと思います。

何はともあれ、受験された皆様は本当にお疲れ様でございました。

執筆:新城宏治

株式会社エンガワ代表取締役。日本語教育に関する情報発信、日本語教材やコンテンツの開発・編集制作などを通して、日本語を含めた日本の良さを世界に伝えたいと思っている。

 

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