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有識者会議が外国人技能実習制度の廃止を提案

2023年4月10日に「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」は中間報告をまとめ、技能実習制度の廃止およびそれに代わる新制度の創設を提案しました。これまでも多くの問題や実態との乖離が指摘されてきた技能実習制度が大きく変わる方向で動き始めました。

技能実習制度の問題点

「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」(以下、有識者会議)は、田中明彦・独立行政法人国際協力機構理事長を座長とし、総勢15名の自治体の首長や法律、経済、労働関係等の有識者により、2022年12月から月1回のペースで会議が開催されてきました。

技能実習制度は1993年に国際貢献を目的に創設され、在留資格「技能実習」により最大5年間、日本で実習する(働く)ことができる制度です。現在では国際貢献という目的は形骸化し、実質的には人手不足の現場で、安価に労働力を補うための制度として機能していると言われています。直近の2022年10月末の統計では在留資格が「技能実習」の外国人は 343,254 人で、全外国人労働者の2割近くを占める大きな数字になっています。

技能実習制度については、これまでもさまざまな問題点が指摘されてきました。技能実習生は受け入れ先の企業で就労するのが原則になっており、転籍ができません。また送り出し機関に支払うために多額の借金をして来日しているケースも少なくないため、受け入れ企業で賃金未払いや時間外労働などの問題が起きても、受け入れ先の企業を離れることができません。こういった事態はこれまでもたびたびニュースで報道され、国内外からさまざまな批判を浴びてきました。

制度目的と実態の乖離の解消へ

今回の有識者会議では、外国人との共生社会の実現という社会のあるべき姿を念頭に置いて、外国人の人権に配慮しつつ、両制度の在り方について検討を行いました。

その結果、中間報告では、技能実習制度については人材育成を通じた国際貢献という制度目的と、国内での人材(労働力)確保や人材育成といった実態の乖離があることから、国際貢献という名目だけで労働力を受け入れ続けることは望ましくなく、現行の技能実習制度を廃止し、人材確保及び人材育成を目的とする新たな制度の創設を検討すべきであると提言されました。

人材育成機能は国内で就労する場合、あるいは帰国後も生かせることから、新たな制度においても人材育成機能を目的として位置付けることを検討すべきとしています。また、その新たな制度から特定技能制度への移行が円滑にできるよう、その対象職種や分野を一致させるような制度設計を提言しています。

これまで批判の多かった、技能実習制度で転籍ができないことの問題点については、人材育成の観点および外国人保護の観点から、転籍制限を緩和することを提案していますが、その際には、人材育成に対する受入れ企業が負担するコストや、産業分野や地方における人材確保などの観点から、今後具体的に検討していくこととされています。

日本語能力向上に向けた取り組み

中間報告では、新たな制度における日本語能力についても、コスト負担の在り方を含め、以下のような述べられています。

まず、外国人労働者が来日する際に、日常生活及び職業生活に必要な最低限の日本語能力を持っていることは重要なので、人材確保の面を考慮しながらも、就労開始前の日本語能力を担保する方法について検討すべきとされています。

来日段階での日本語能力をどこまで求めるかは今後の議論になりますが、例えば自分で病院や役所に行けるぐらいの日本語能力は必要ではあるが、その一方、あまり高い日本語能力を求めてしまうと、日本が敬遠されてしまうのではないかといった意見も見られました。

また、来日後においても、引き続き日本で働き生活していくためには日本語能力の向上は重要かつ必要であることから、日本語能力が段階的に向上する仕組みを検討すべきとしています。

日本語の重要性について共通認識はある程度あるものの、企業も外国人もどちらも「働くこと」に注力したいので、正直、語学教育についてはインセンティブが弱いのではないかとの指摘もありました。企業が積極的に取り組めるよう、企業や外国人に向けた何らかの動機づけの仕組みが必要かもしれません。

受け入れに当たり、外国人労働者に対する来日後の日本語教育に掛かる費用は、基本的に受入れ機関(企業)が負担することになるとは思いますが、受入れ機関(企業)がどこまで負担すべきなのかという意見もありました。前提として、「日本として外国人に来てもらいたい」ということであれば、公的な負担なども考えられるかもしれません。日本語教育のコストをどこがどの程度負担するのかということについては、今後も引き続き検討されていくテーマになると思われます。

有識者会議では今回の中間報告を経て、今後、秋に向けて最終報告をまとめる予定です。

「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の中間報告全体はこちらをご覧ください。

https://www.moj.go.jp/isa/policies/policies/03_00063.html