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日本語教育の質の維持向上の仕組みに関する有識者会議2 ――どうなる日本語教師の国家資格

文化庁で2022年5月31日および6月30日に開催された「日本語教育の質の維持向上の仕組みに関する有識者会議*1」は、日本語教師の国家資格の法制化に向けた詳細を検討する有識者会議です。2020年~2021年に「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」が取りまとめた「日本語教育の推進のための仕組みについて(報告)」をベースとしながらも、日本語教員の国家資格などについて具体的な検討が始まろうとしています。

日本語教育機関の認定制度・日本語教員の国家資格のイメージ

まず、第1回会議で事務局から示された「検討に当たってのイメージ」について、ポイントを整理します。

 

1.日本語教育機関の認定制度(イメージ)

  • 日本語教育機関は文科相の認定を受けることができる。
  • 文科相は認定日本語教育機関の情報を多言語で公表する。
  • 認定日本語教育機関は文科相認定であることを広告などに表示できる。
  • 文科相は認定日本語教育機関に報告を求め、是正措置を講ずることができる。

 

2.認定日本語教育機関の教員の資格(イメージ)

  • 認定日本語教育機関において日本語教育を担当する者は、登録日本語教員である。
  • 登録日本語教員として登録するには試験に合格し、教育実習を修了しなければならない。

本有識者会議での主な検討事項(案)

次に、第2回会議で示された「主な検討事項(案)」について、ポイントを整理します。「検討に当たってのイメージ」について、具体的には以下のような事項を中心にこれから検討が始まります。

 

1.日本語教育機関の認定制度に関すること

  • 教育課程は「日本語教育の参照枠」を踏まえて検討
  • 「認定日本語教育機関」の日本語教師は「登録日本語教員」であるが、その他の教員(日本語学習支援者等)については資格が不要か検討
  • 第三者評価を認定制度上に位置付けるか検討
  • 文科相への定期報告は告示校の報告事項や頻度を踏まえて検討

 

2.日本語教師の国家資格に関すること

  • 筆記試験の内容は、日本語教育能力検定試験など既存の民間試験を踏まえて検討
  • 法指定後、指定養成機関修了者は試験の一部を免除
  • 法指定後、指定養成機関の養成機関の養成課程修了生は教育実習を免除
  • 「一定の実務経験」のある者は、移行期間内に登録する場合には、新たに教育実習を受ける必要はないこととし、「一定の実務経験」の具体的な内容を検討
  • 新試験で測るものを網羅している民間試験合格者については、移行期間内に登録すれば試験の一部または全部を免除することについて検討

 

日本語教員の国家資格に関する検討事項の中で特に気になるのは、最後の2項目の、既に日本語教えている方々や日本語教育能力検定試験などに合格している方々が移行期間内に登録日本語教員として登録する場合のことです。

「一定の実務経験」の具体的な内容については、どういう教育機関(範囲)で、どのぐらいの期間(時間)が「一定の実務経験」として認められるのか、またそれをどのようにして証明するのかなど、今後検討されることになると思われます。

また、民間試験合格者の新試験免除について(ここで指しているのは主に日本語教育能力検定試験のことと思われますが)、過去の日本語教育能力検定試験は「新試験で測るもの」を網羅していると言えるのか、その場合、免除されるのは試験の一部なのか全部なのかなど、今後検討されることになると思われます。

ここで注目したいのは、現行の日本語教育能力検定試験が令和4年度(2022年10月23日に実施予定)から、「必須の教育内容」(文化庁)に準じた出題範囲に移行するということです。出題内容が全面的に変わるわけではありませんが、もし「新試験で測るもの」が「必須の教育内容」になるとすれば、日本語教育能力検定試験の出題範囲の移行は日本語教師の国家資格の動きと無関係ではないのかもしれません。

日本語教育機関の認定を前提とした日本語教師の国家資格化へ

「日本語教育の質の維持向上の仕組みに関する有識者会議」(以下、本会議)の前段階として2020年~2021年にかけて「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」が開かれました。ここで取りまとめた「日本語教育の推進のための仕組みについて(報告)*2」を改めて見てみると、ここでは、日本語教師の資格について多くのページを割き、かなり具体的に検討されていました。この内容は本会議の会議の前提になります。

しかしながら、「日本語教育の推進のための仕組みについて(報告)」の中では、「日本語教育機関の水準の維持向上」「教育内容の質の保証が必要である」などとはしながらも、本会議のイメージで示されているような日本語教育機関の「認定制度」についてまでは踏み込んではいませんでした。また、「日本語教育の推進のための仕組みについて(報告)」の中では、「各日本語教育機関には、一定数以上の公認日本語教師(当時はこのように呼んでいました)の配置を必須とすることが要件として求められることとなる」としていましたが、これが本会議の「検討に当たってのイメージ」では「認定日本語教育機関において日本語教育を担当する者は、登録日本語教員であるものとする」と、必須条件に変わっています。もちろん、これはあくまで事務局から示されたイメージであり、具体的な検討はこれから始まります。

認定日本語教員(公認日本語教師)という国家資格化ができても、その資格を取得する・しないはもちろん各日本語教師が判断すればいいことなのですが、少なくとも認定日本語教育機関で働きたいのであれば国家資格の取得登録が必須になるような方向で話が進んでいく可能性があります。そのため、これから日本語教師になる人はその前提で必要なプロセスを踏んでいけばいいのですが、既に日本語を教えている人にとっては、移行措置の内容や時期について注意深く情報を収集していく必要があります。

 

*1:「日本語教育の質の維持向上の仕組みに関する有識者会議」

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_kyoin/93710001.html

*2:「日本語教育の推進のための仕組みについて(報告)」

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_kyoin/93324301.html